新型コロナ感染検査 詳細
PCR検査・抗原検査・抗体検査 2021.6. 13追加
新型コロナ感染症の検査は、さまざまな検査があります。
PCR検査や抗原検査、採取する部位も、鼻腔や唾液などさまざまです。
それらは、どのような意味があり、メリットがあるのか、実際に患者さんからのご質問があります。
いつもご説明している内容をお知らせします。
目次
●概略
・PCR検査 微量なウイルスも増幅して診断 一番正確な感染の有無の判定法
-
抗原検査 簡便だが、PCRより精度が落ちる。陽性判定は信頼できる
・抗体検査は発熱の際の検査には出番がない
・抗体はどれだけの時間維持されるのか?=ワクチンの効果はどれくらい続くのか?
●PCRの正確さは?答え:きちんと採取できていれば正確。それ以上は言えない
●唾液PCRは咽頭や鼻腔のPCRと比べて劣るのか? 感度約95%、けっこういい線いってました
●抗原検査はPCRと比べ、どれだけ劣っているのか?感度は約80%。偽陽性・偽陰性ともに5%
≪概略≫2021.6.11追加
≪結論から言います。≫
PCR検査と抗原検査は、今、感染しているかどうか。抗体検査は過去の感染かワクチン接種で免疫されているかの指標です。
検査制度は、PCRは抗原検査よりも正確です。抗原検査は検出の感度が劣り、偽陽性(本当は感染していないのに感染している、としてしまう)も5%程度あります。
抗体検査は「感染歴の確認」的な意味合いですので、あまり出番はありません。
≪PCR検査 微量なウイルスも増幅して診断 一番正確な感染の有無の判定法≫
PCR検査は、ポリメラーゼ連鎖反応(Polymerase Chain Reaction)の略称です。
現在感染しているのかを調べる検査で、ウイルスの遺伝子を増幅するので、微量のウイルスでも検出可能です。しかし、検体採取をした場所にウイルスが存在しなかった場合などは感染していた場合でも陰性となってしまう場合があります。
PCRには唾液と咽頭ぬぐい液を採取する方法があります。
咽頭ぬぐい液は綿棒を深く咽頭に挿入するので苦痛も多いです。また、医療従事者がくしゃみの飛まつをあびることになるので、唾液によるPCR検査が普及しています。後述のように唾液と咽頭ぬぐい液との差は「わずか」であることを示す研究成果が報告されつつあります。
ただ、海外では、陰性証明を咽頭ぬぐい液によるPCRに限定しているところもあります。
https://www.saiseikai.or.jp/feature/covid19/data_q02/?
恩師財団済生会ホームページより
≪抗原検査 簡便だが、PCRより精度が落ちる。陽性判定は信頼できる≫2021.6. 13追加
目的のウイルスだけが持っているタンパク質(抗原)を、簡単なキットを用いて検出する検査方法です。みなさんが病院でインフルエンザの検査をするときはこの抗原検査を行っていることが多いです。
新型コロナウイルス専用の抗原検査キットを用いて検査します。
30分で結果が得られますし、簡単なキットで測定するので、特別な検査機器を必要としませんが、PCR検査に比べて沢山のウイルス量が必要なため検出率は劣ります。「陽性」判定は信頼できますが、「陰性」と出てもPCRほど安心できません。このため、抗原検査はPCR検査と組み合わせて活用することが多く見受けられます。
≪抗体検査は発熱の際の検査には出番がない≫2021.6. 13追加
抗体とは、ウイルスに感染したり、ワクチンによって「模擬感染状態」にすることで免疫細胞を教育することによって生産可能になる、ウイルスを直接攻撃するYの字型のタンパク質です。感染後すぐには出来ず、2-4週間以降にできてきます。
ですから、抗体検査は発熱時の感染の有無には向かず、自分自身の免疫が成立しているかどうかを確認する検査といえます。
しかし、抗体を作ることが免疫のすべてではありません。免疫細胞が直接攻撃するシステムも存在しており、そちらがむしろ免疫の多くを担っています。そして、そちらの方は検出は実験室レベルとなり、個々の患者さんの免疫細胞をしらべることは物理的に不可能です。
≪抗体はどれだけの時間維持されるのか?=ワクチンの効果はどれくらい続くのか?≫2021.6. 13追加
抗体はすぐになくなってしまう、という悲観的なデータと半年後くらいまではかなりしっかり残っている、というデータとさまざまです。
抗体価は、ワクチンの効果の予測因子の一つとして考えられますので、今後の研究成果を期待したいです。
しかし、免疫は抗体がすべてではないので、ワクチンの効果を判定するには、実際に新規感染者や死亡者が減少したかどうかという結果が最も大切だと考えます。
それでは具体的にご紹介します。
2020年7月に、イギリスの研究です
「新型コロナウイルスに感染したほとんどの人は抗体を作るが、これは急速に衰えていくことが多く、感染後数カ月で免疫がほとんどなくなることを示唆している」と、英インペリアル・カレッジ・ロンドンのダニエル・アルトマン教授(免疫学)」https://answers.ten-navi.com/pharmanews/18801/
つまり、実際に感染してつくられるようになった抗体が、数ヶ月でなくなってしまう衝撃的なデータです。元論文は Longitudinal evaluation and decline of antibody responses in SARS-CoV-2 infection https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.07.09.20148429v1.full.pdf
です。
しかし、だからと言って同じイギリス人で、新型コロナウイルス感染の再感染が多数報告されているわけではありません。抗体を作ることが免疫のすべてではありません。免疫細胞が直接攻撃するシステムも存在しており、そちらがむしろ免疫の多くを担っています。
イギリス人の感染後の抗体値が下がっても再感染が少ないということは、測定する抗体の値が低くてもいざというときに抗体を作れる能力が維持されているか、細胞が直接アタックする抗体とは別のシステムが新型コロナ感染に対するメインの役割を果たしている、などのさまざまな解釈がなりたち、実態はよくわかりません。
一方、日本人を対象とした研究では、東京大学医科学研究所によると「新型コロナウイルス感染時に獲得されたウイルスに対する抗体は少なくとも発症後3~6か月間は維持される」https://www.amed.go.jp/news/release_20210212-02.htmlとのことですし、横浜市立大学の「新型コロナウイルス感染症回復者専用抗体検査PROJECT 1」https://www.yokohama-cu.ac.jp/news/2021/20210520yamanaka.htmlの中間発表では、回復者のほとんどが6か月後も抗体を保有を維持していることを報告されました。
≪時間とともに変わる検体採取部位のウイルス量≫ 2021.6. 13追加
http://medrxiv.org/content/early/2020/04/14/2020.04.05.20053355.abstract
JAMA(Jounal of American Medical Society)という私の好きなJournalがあります。
賢い表が掲載し当てていましたのでご紹介します。https://jeaweb.jp/covid/qa/index.html
≪PCRの正確さは?答え:きちんと採取できていれば正確。それ以上は言えない≫ 2021.6. 13追加
流石に疫学会はクールな見解を示しています。
「PCR検査は、ある程度のウイルス量があれば、ほぼ正確に診断できると言えますが、検体の取り方や場所、感染からの経過日数などによってその正確さは変わります。」
https://jeaweb.jp/covid/qa/index.html
PCRそのものは大変正確な検査ですが、検査自体よりも、下記の影響が強すぎて、PCR検査の正確さはかなり幅があるとしかいえない。
①十分採取できたかどうかで大きく変わる。
②ウイルスの広がりによって、採取場所(咽頭・鼻腔・唾液)にウイルスがいない場合もありうる。
③採取する日程によっては、ウイルス量がまだ少なく、陰性になることがある。
https://jamanetwork.com/journals/jama/fullarticle/2765837
≪唾液PCRは咽頭や鼻腔のPCRと比べて劣るのか? 感度約95%、けっこういい線いってました≫2021.6. 13追加
約2000例の大規模調査で、唾液と鼻咽頭ぬぐい液の診断精度の比較を行いました。
唾液PCR検査の感度は咽頭ぬぐいPCRとほぼ同等の精度であることを結論づけました。
(北大豊嶋教授ら原著論文https://www.medrxiv.org/content/10.1101/2020.08.13.20174078v2.full-text)
日本語要約https://www.huhp.hokudai.ac.jp/wp-content/uploads/2020/09/release_20200928.pdf )
対象:国際便での空港検疫および保健所での濃厚接触者
方法:唾液と鼻咽頭ぬぐいの両方でPCR 検査を実施
感度とは、陽性を見逃さない割合、陽性という結果が出た場合、それがどれだけ信頼できるかという割合。 感度=真陽性÷(真陽性+偽陰性)
特異度とは、同様に、陰性と出た結果が、実際どれだけ陰性であるかの正確。 特異度=真陰性÷(真陰性+偽陽性)
日本語であらわすと、咽頭ぬぐいPCRが真実とした場合、解釈としては、唾液PCRの95.45%は正しかろう。
しかし、6÷1924=0.31%の偽陽性、つまり本当はコロナでない人をコロナとしてしまうことはほとんど無い。
そして、同じく4÷1924=0.21%の偽陰性、つまり本物のコロナを見落としてしまうこともほとんど無い。
ということになります。
≪抗原検査はPCRと比べ、どれだけ劣っているのか?感度は約80%。偽陽性・偽陰性ともに5%≫2021.6.11追加
抗原検査はみなさんが見たことがあるといますが、病院で行われるインフルエンザ検査と同じようなキットで行われ、30分程度で結果が出ます。PCRと比べて大分信頼性が劣る、と、お聞きになったことがあると思いますが、
「自衛隊中央病院による60件の保存検体の解析」( https://gemmed.ghc-j.com/?p=34480 )をもとにわかりやすく図にしてみました。PCRと抗原検査とを60人に両方実施し、その結果を比較した研究です。
PCRの結果が真実とした場合、真の陽性、偽陽性、偽陰性、真の陰性、と注記してあります。
PCRが真実とした場合、解釈としては、抗原検査の80%は正しかろう。
しかし、3÷60=5%の偽陽性、つまり本当はコロナでない人をコロナとしてしまう。
そして、同じく3÷60=5%の偽陰性、つまり本物のコロナを見落としてしまう。
ということになります。
偽陽性5%はけっこう大きいかもしれません。同じ有病率で計算すると、10万人検査して500人。名古屋市200万人全員検査すると10万人が、実は感染していないのにコロナ感染にされてしまうということになります。
PCRや抗原検査の限界は画像診断で補います
PCRの限界
PCR検査の診断率は30-70%と言われており、PCR検査で陰性であっても完全に否定できません。限界を補うためにも、血液検査、レントゲン・CTは有用です(後述)。
血液検査・レントゲン検査や胸部CTの価値
新型コロナ感染が重症であるかどうかは、肺炎の有無にかかっています。
新型コロナ感染でお亡くなりになる方は、重篤な肺炎へ発展し、肺炎が治療困難となることがほとんどと言われています。
悪いことに、新型コロナウイルスによる肺炎は、最初は咳や呼吸困難などの症状がまったく出ない方も多く、通常の診察だけでは正確な診断は困難です。
胸部CTは、症状が出ていない肺炎も極めて正確に診断ができるのです。
≪血液検査の意味≫
血液検査は、血液をチェックするという一種類の検査で、ウイルスや菌と体との戦いである炎症の大きさ、ウイルス感染なのか細菌感染なのかの大まかな見通し、肝機能や腎機能、ナトリウムなどの体のバランスなどが確認でき、病気の重症度や病気の波及している範囲が把握されます。
≪コロナ肺炎の多くはレントゲンで分からず、CTでなければ診断できない≫
コロナ肺炎は、肺の周囲から生じることが多く、驚くことに半分以上の方が咳や痰の症状がありません。また、コロナ肺炎は淡い影が多発する特徴があり、淡すぎて胸部レントゲン検査では全く見えず、CTでしか診断できないことが多々あります。無症状の濃厚接触者の方でも、CTで肺炎像が確認されることがあるため、CTの必要性を日々痛感しております。
≪救急病院でもCTが決め手≫
病院の救急外来の多くは、胸部CTでの肺炎像の有無を、重要な指標にしています。
≪肺炎の有無が本当に大切≫
胸部CTで「肺炎が無い」ということが確認されると、重症のコロナ感染では無い=生命の危機は少ない、と、安心できます。仮にPCRで陽性となったとしても、重症コロナでなく入院などが必要になる可能性が低いと安心できます。CTでの肺炎の有無は直ちにわかりますので、「肺炎は無かったのでご安心ください」とお伝えすると、本当にご安心いただけます。今後のために、CTの画像データはCD-Rでお渡ししております。
当院では、病状をしっかりお伺いして、症状に応じてPCRを含めた適切な検査を迅速に実施して、万全を期すよう心がけております。