診療方針
内科医を上手に使って健康で長生きを
内科の大切な任務:生命に関するリスクをどうやって減らすか
あらためて内科とは?と考えると、みなさんのイメージは、風邪や腹痛、血圧、癌…こんな病気を診るところ、と言い感じでなんだかわかりにくいと思います。実は、大体このイメージであっているのですが、眼なら眼科、骨折は整形外科というようにクリアではありません。
それは、内科が担当する器官が、脳・心臓・肺・腎臓等々多岐にわたり、病気の種類も多岐にわたっているように見えるからだと思います。
結論から申し上げますと、内科の任務とは、「生命に関するリスクをどうやって減らすか」であると考えます。
生命に関するリスクとは?
人間は手足が無くなっても不便極まりないですし大変な不幸ですが、生きていくことは可能です。しかし、内臓が一つでも致命的なダメージをこうむると生きられません。従って、生命のリスクとは内臓に対するリスク、と言い換えることができます。
内臓が受けるリスク・病気は、大きく3つのグループに分けて考えると見通しがよいでしょう。第一のグループは、細菌やウイルスが引き起こす「感染症」、そして第二のグループは血管が詰まることで内臓が酸欠死する「梗塞」、最後は「癌」です。
このような見方で整理すると、無限にあるように思える病気も、3つの病気の種類×内臓の数、という有限なものとなることがご理解いただけると思います。
感染症・梗塞・癌
風邪は細菌やウイルスによって生じる「感染症」ですし、血圧が高いことで引き起こされる血管損傷により血管が詰まってしまうことから「梗塞」の大きなリスクとなります。そして「癌」はみなさんのご存じのところだと思います。
細菌やウイルスが肺まで達すると肺炎となり命にかかわりうる状態となりますし、脳の血管が詰まると半身麻痺と悲しい事態となりますし、癌は命にかかわる病気であることは言うまでもありません。
これら3つのリスクは、迎え撃つ基本方針が異なります。それぞれの方針に則って、みなさんの健康を守ることが内科医の任務なのです。
具体的にご説明していきます。
感染症というリスク
感染症とは、細菌やウイルスが体に侵入して、体がそれを排除しようと闘いを挑んでいる状態です。実は、侵入経路は限られています。それは、体の大きな「穴」です。食べ物の穴である胃腸、空気を取り込む穴である気道・呼吸器、そして尿路です。
胃腸はもっとも菌が入りやすいところです。食べ物は完全に無菌ではありませんし、口腔内や大腸にはたくさんの菌がいます。そして主たる吸収の場である小腸を守るために胃の中には強力な殺菌作用のある胃酸があります。ですから、消化管の感染症は実はあまり頻度は多くありません。
早期発見と早期治療で、体の奥深くに菌を入れない
感染のメインとなるのは、呼吸器と尿路でしょう。呼吸器の本丸は肺で、尿路のそれは腎盂・腎臓です。菌が肺や腎盂まで到達してしまいますと、生命にかかわる重篤な状態となりえます。
本丸を守るために、呼吸器では喉にリンパ組織があり、尿路には膀胱という緩衝地帯があります。病原体の多くはそこで食い止められます。酸素取り込み工場である肺を守る門番が喉で、喉で病原体を食い止めてくれているから酸素取り込み工場が機能障害におちいり体中が酸欠にならずに済むのです。
年齢や基礎疾患によって病原体の種類や振る舞いがかなり変わります。高齢で弱っておられる場合、初めから強力な治療が必要な場合があります。また、高齢者の場合は、自分自身の唾液を誤嚥されて重篤な感染を来す場合が多く、迅速な抗生物質の発動が生命を救うことがあります。
感染症におけるリスク管理は、感染の初期を見落とさないこと、即ち、早期発見、そして病原体を体の奥にある大事な内臓まで侵入させないようにすること、即ち、「早期治療」ということになります。
上記は、細菌のように抗生物質という直接的な殺菌剤がある病原体の場合ですが、ウイルスを直接破壊する抗ウイルス剤は限られているため、ワクチン接種による予防がメインとなります。(ワクチンについては、新型コロナワクチンのページもご参照ください)
「梗塞」=血管つまり病のリスク
すべての細胞は、常に酸素や栄養素を血管から取り込み、二酸化炭素や老廃物を血管に廃棄します。血管のトラブルで血流が途絶えると、その先にある細胞は死んでしまいます。血管を若々しく保つことが目標となります。
血管を痛める要素は、血圧・コレステロール・糖尿です。
老化とはしなやかさを失うことで、血管も老化によって固くなります。
心臓の負担を軽くして楽にしてあげよう
心臓の立場で考えてみましょう。老化で血管が固くなっても、若くて血管がやわらかかったときと同程度の血液を全身に送らなければなりません。そのために心臓がより強い力で血液を送り出さねばならず、心筋の収縮力を強くしなくてはなりません。これが血圧の上昇であり、高血圧状態です。
血管も楽にしてあげよう
高血圧となると心臓の負担が大きくなるだけでなく、血管にとっても大きな圧がかかることになります。常に180の圧がかかり続けるのと、130の圧しかかからないのとでは、血管の傷みかたが違います。コレステロールも血管の内側にこびりついて、血管を細くしてしまいます。糖尿病の人の血管も、本当にもろくなっています。
血管が痛むことが「梗塞」の大きなリスクとなります。傷んだ血管の内側の細胞に反応して、血管内で血液の塊ができて血管を詰まらせてしまうのです。
「梗塞」=血管つまり病は寝たきりのリスクの46.6%
梗塞を生じる内臓は、脳と心臓が圧倒的です。そして脳と心臓は、ものすごく重要な器官で、その機能の障害は、大きな被害をもたらします。国立循環器病センターの集計によると、脳血管疾患37.9%+心臓病4.7%=46.6%と寝たきりの原因として半分近くの原因となるのです。
では、どうしたらよいか?
血管の筋肉を若い時のようにしなやかにして、若い時と同じだけの弱い力で心臓が楽に打つだけでよい、という状況にするのが血圧の薬です。心臓を楽にすると同時に、血管の内側の傷みも減らすのです。コレステロールと糖尿のコントロールも血管を守ります。
高血圧・高コレステロール・糖尿病は痛くもかゆくもありません。しかし、血圧・コレステロール・糖尿をきちんとコントロールすることで、60代以降、心筋梗塞や脳梗塞になって悲しい思いをするリスクを少しでも減らすことにつながります。
高血圧・糖尿病・高脂血症は心筋梗塞を飛躍的に増やす
高血圧・高コレステロール・糖尿病単独では4倍。
2つ重なると16倍。
3つ重なると32倍です。
高血圧は脳梗塞を飛躍的に増やす
癌というリスク
癌は、自分自身の細胞が、突然変異を起こし、内臓を壊してまで増え続け、挙句の果てには、肺や肝臓、リンパ節などへ転移します。心筋梗塞や脳梗塞のような血管つまり病のように強い胸痛や麻痺を生じることも無く、感染症のように熱がでるわけでもありません。さらには転移した部分は手術できないので、命を落とすことになってしまいます。
癌は増えている。
脳血管障害は昭和40年ごろをピークに減少し、心疾患は平成25年ごろより横ばい。癌は着実に増加しています。
戦前は、抗生物質の無い時代でしたので、結核と感染症が全死亡の60%をしめていました。平均寿命も短く、脳血管障害や癌を発症する年齢に達する以前に亡くなられていたことも大きいと思います。
早期癌と進行癌は全然違う
癌のリスクを減らすためには、早期発見が大切です。
膵臓癌以外の癌は、2㎝以下で発見されると(早期癌)、手術後5年たって生きておられる確率(5年生存率)は、90%です。それより大きいと、50%程度と一気に下がります。どんな癌の手術でも、肺や肝臓に転移があれば手術をした方が寿命を縮めることがわかっているので手術にはなりません。術前にしっかりと転移の有無を確認するのですが、2㎝以下の場合は本当に転移が存在せず、それ以上の場合は、術前の検査では確認できない小さな小さな転移が50%程度の確率で実は存在していて、それが5年のうちに大きくなってくる、ということが考えられます。
下記のグラフは、国立がんセンターによる、2009年、2010年の2カ年分の約57万例のデータの集計です。
癌の手術の5年後にどれだけ生存できるのか、という結果を、早期癌、進行癌にわけて記載してあります。I期が早期癌にあたります。II期以上が進行癌です。II期は臓器にとどまる、III期はその領域にとどまる、IV期は離れた臓器に転移が認められる、と大体お考えください。
I期とIV期では全然違うことがお分かりいただけると思います。
I期とII期・III期でも、平均90%と50-60%と大きな差があります。
I期とIV期では全然違うことがお分かりいただけると思います。
I期とII期・III期でも、平均90%と50-60%と大きな差があります。
癌というぎりぎりまで無症状の病気とどう取り組むか
大きな癌であっても症状の出ないことが多いので、2㎝以下の早期癌は症状がでることはまずありません。癌年齢になられたら、無症状であっても定期的にチェックするしか方法はありません。無数の検査をやり続けなければいけないか、というとそうではないのです。癌ができるところは決まっています。呼吸器と消化器とプラスαです。無数の検査があるわけではありません。
原発の癌の大部分は、胴体に生じます。肺・肝臓・腎臓などの塊の内臓はCTやMRIが有効です。胃腸や大腸などはCTでは見えませんので胃は胃カメラ、大腸はまず便潜血の検査が有効です。
名古屋市の検診制度はすばらしい
名古屋市は、すばらしい検診のシステムがあります。肺癌検診・大腸癌検診・胃癌検診・子宮頸癌検診・乳癌検診が既定の年齢より65歳まではそれぞれ500円、70歳以上の方は無料の制度です。当院では、子宮頸癌検診・乳癌検診以外の検診を受けることが可能ですので、是非、ご活用ください。
無症状で進行していき、発見が遅れると生命をおびやかす癌に対抗するためには、定期的な検査しかありません。
当院では、いつ、どの検査を実施したかを診療の都度確認しており、上述のようなご説明を申し上げてきちんと説明しております。検査をうけていただいている方は、早期発見できています。
「医療設備・検査について」のページもご参照ください。
まとめ
日々、このような観点で、診察をしております。
以上は内科診療の概略にすぎず、もちろん、これだけではありませんが、おおまかなイメージはお伝え出来たと思います。
最後に、日々痛感しておりますのコミュニケーションの大切さについてお話します。
ただ単に、「脳梗塞の予防のために血圧の薬を飲んでください」というだけではメリットは伝わりません。血圧の薬を飲み始めたら一生飲むことになるから嫌だ、とおっしゃいます。
いつも以下のようにお話をしています。
老化で固くなってしまった血管にしっかり血液を流すためには、心臓が頑張らなければなりません。では、どうしたら心臓を楽にして、長持ちさせられるか、というと血圧の薬で若い時と同じように血管を柔らかくしましょう。血管を若い状態にしましょう。そうすれば心臓は若い時と同じ少しの力を出すだけですみますし、血管も傷みません。血管が傷まないと血管の中で血が固まることもなく、脳梗塞や心筋梗塞も予防できます。
血液のとおりが悪いと、内臓のすみずみまで血が回らず、内臓の細胞が死んでいきます。これが内臓の老化、機能低下となります。脳細胞だって血流が悪いと数が減っていくでしょう。
血圧の薬の進歩は目覚ましいものがあります。今の時代に、その恩恵を無駄にするのはもったえないですよ。今から5年、10年、15年たっても、今のようにお元気でお過ごしいただくために、大切な薬でもありますし、大きなメリットがあります。
血圧のお話のみならず、検査の必要性や検査結果の説明、時には、他科で受診されたときの疑問など、さまざまなお話しを日々お話申し上げております。時間の許す限り、なるべく医学用語を使わず、その人にとってわかりやすい比喩を工夫するときちんとご理解いただけますし、それは、私にとっても大変うれしいことです。